─わたしを救ったのは “大っ嫌いな母の歌声”でした─
『羊たちの沈黙』ジョナサン・デミが監督、メリル・ストリープが実娘と共演し、
ロック・ミュージシャン役に果敢に挑戦した感動作!

アカデミー賞を3度受賞した名女優メリル・ストリープが実の娘メイミー・ガマーと母娘役で初共演。奇抜なファッションに身を包んだ破天荒なロック・ミュージシャン役に挑戦し、80年代に一世を風靡したグラミー賞歌手リック・スプリングフィールドと共に数々の名曲を生声で披露してくれる音楽ファン必見の作品。




Rick in the Flash


ゴールデン洋画劇場の『タワーリング・インフェルノ(後編)』の放送を見終えた後、チャンネルを8から10に回し、ベストヒットUSAを観ることにした。新聞のラテ欄に”オリビア・ニュートン・ジョン”と書いてあったからだ。ちょうど「フィジカル」が大ヒットしている頃で、当時としては刺激的なミュージックビデオが観られるのはこの番組とTVKのミュージックトマトぐらいしかなかった。番組内で小林克也が流暢な英語で外タレと対等にやりあっている姿を毎週観て、自分もいつかああなりたいと思っていた。

番組の構成は最初にHOT MENUでこれから売れそうなアーティストを紹介し、その後RADIO&RECORDS TOP20を発表、TIME MACHINEで懐かしのヒット曲をちょい見せして、最後にSTAR OF THE WEEKでその週のアーティスト特集。その夜はオリビアがSTARだった。しかし私がその夜出会ってしまったSTARはオリビアではなく、TOP20の発表中に紹介された“彼”だった。

最初の大ヒット曲「ジェシーズ・ガール」はFENではよく耳にしていた。英語の綴りが長く、さらに似た苗字のSpringsteenなるアーティストの曲もよく流れていたので、名前すらうろ覚えだった。ところがその夜、私はアメリカ人がエルヴィスを、イギリス人がビートルズを初めて見たときに感じたであろう一生忘れることのできない衝撃を受けた。自身のアルバムから3枚目のシングル「ラブ・イズ・オールライト・トゥナイト」を歌うその姿は私が欧米人に抱いていた憧れの要素をすべて持ち備えていた。透き通るような青い瞳と甘いマスク。すらりと伸びた長い脚を空中へと高らかにキックし、髪を揺らしながら激しくかき弾かれるギター。時は止まり、明滅するブラウン管の向こうに己の青春を見た。

“彼”のパフォーマンスにノックアウトされた私は翌日、新宿東口のディスクユニオンに赴き「Working Class Dog(邦題:ジェシーズ・ガール)」の輸入盤のLPを手に入れ、家に帰ってそのアルバムを聴きまくった。歌詞カードがなかったので、何度も何度もリピートして英語の歌詞を書き写し、せめて歌ぐらいはと夢中になった。普段はセクシーなジャケット写真の「フィジカル」を聴いていた私が、愛くるしい犬が描かれたアルバムジャケットの曲を聴くようになり、一時とはいえ母は安心していたようだ。

コンサートにも行ける限り足を運んだし、アメリカ留学中は東海岸ツアーの追っかけをしたこともあった。そもそも、あの夜ベストヒットUSAで“彼”の姿を観ていなかったら留学したい気になどなっていなかったであろう。英語が喋れるようになって、“彼”のようにクールに立ち振る舞って女の子にモテたい。アメリカで一花咲かせたい。そんな気持ちで渡米したのがつい昨日のことのようだ。 あれから35年。思いとは裏腹に月日は残酷に私を変え、体型はすっかりおっさんになってしまった。でも“彼”は違う。当時と変わらぬ輝きを今でも絶やすことなく放ち続け、加えて月日は彼にぜい肉ではなく貫禄を上乗せさせ、より魅力的なアーティストにせしめた。

俳優としても活躍している“彼”は3月5日公開の映画『幸せをつかむ歌』で主演のメリル・ストリープのバンドメイト/ボーイフレンドを演じている。長年のファンとしては、アカデミー受賞者のジョナサン・デミ監督作品に同じくアカデミー常連女優と共演している“彼”を観られるだなんて、もう感無量である。

今年で御年67歳。最新アルバム『ロケット・サイエンス』をリリースしたばかりのリック・スプリングフィールド。私の憧れもまた、まだまだ現役だ。

(TEXT by TA 2016/3/1)




幸せをつかむ歌
RICKI AND THE FLASH

2016年3月5日(土)公開
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.shiawase-uta.jp/

2015年/アメリカ/101分

【ストーリー】
54歳のリッキー(メリル・ストリープ)は家族を捨て、ボーイフレンドのグレッグ(リック・スプリングフィールド)と共にロサンゼルスの小さなライブハウスで歌って演奏する日々を送っていた。ある日、別れた夫のピート(ケビン・クライン)から娘のジュリー(メイミー・ガマー)が夫に捨てられ自殺を図ったと知らされる。娘の力になりたいと思いながらも、何一つ母親らしいことのできないリッキーは、20年ぶりに家族が暮らすインディアナポリスを訪れるが、ジュリーは、家族を崩壊させた母を嫌い、二人の溝はなかなか埋まらないのだが…。

監督:ジョナサン・デミ





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