アイスピックが最新の治療道具として使われた時代、
ニーゼが選んだ武器は絵筆だった──。
恐れの代わりに愛を与えた実在の精神科医の物語。


2015年の東京国際映画祭コンペティション部門で最高賞の東京グランプリと最優秀女優賞の2冠に輝き。審査員長の映画監督ブライアン・シンガーに絶賛されたブラジル映画の傑作。



実在した精神科医ニーゼ・ダ・シルヴェイラを描いたブラジル映画で、2015年の東京国際映画祭グランプリと最優秀女優賞(グロリア・ピレス)をW受賞。
精神疾患患者の治療として、アイスピックなどで脳に外科的手術を行うロボトミーが最新医療だった1940年代を舞台に、絵画や動物などによる心理療法を実践した女性医師の話である。
まず冒頭から不安を煽る。病院とは思えない鉄壁にある小さな入り口を、ニーゼが訪ねるところから始まる。呼鈴はなく、何度もドアを叩いてようやく看護婦が現れる。外部からの訪問者を拒み、中の患者を外に出さないという意思の表れのようだ。彼女がその精神病院に着任した日には学会が行われており、嫌がる患者に電気ショックを与える治療が公開されていた。暴力的治療に異を唱えたニーゼは、その日から病院、同僚、治療法とあらゆるものと<戦う>ことになる。
ブラジルは、第二次世界大戦に参戦していたし半ば独裁政権だったため、決して国内情勢が安定していた訳ではない。そんな時代に女性の地位が保障されることもなく、仕事に就くことですら困難だったと思われる。ニーゼは病院の方針に反対したことで、閑職とも言える患者たちを働かせる作業療法の部署に回される。そこは、やる気のない看護師らが、ただ患者たちを放任するか罵倒するだけの場所だった。ニーゼはまず部屋を掃除し、看護師らの意識を変え、患者を見守ることから始める。患者の落書きをきっかけに、絵を描かせることを思いついたニーゼは、理解ある同僚の協力を得て院内にアトリエを作る。そんな彼女の治療方法に賛同するものは少ないが、良き夫のサポートもありひるむことなく突き進む。ときには、同僚に対し「私の道具は筆で、あなたはアイスピックで患者を治す」と食って掛かる。少しずつ理解者が増えていくのだが、最初は全くやる気を見せなかった看護師の変化が見逃せない。当然ながら患者らも表情が豊かになり、外出するほどにまでなる。そして、ついに退院する人まで現れるのだ。
この映画の真の主人公は患者たちである。それまで絵を描いたり粘土細工なんてものをしたことのなかった患者らが、生き生きと個性的な芸術作品を生み出していくのである。主に精神障害者といった芸術を学んだことのない人たちによる無意識の芸術作品を<アール・ブリュット(生の芸術)>と呼ぶようになるのはもう少し後の話である。しかし、その言葉が生まれたフランスではなく、ポルトガルの植民地だったブラジルでも絵画などの心理療法が注目されつつあったのが興味深い。
実際のニーゼは1999年に94歳で亡くなっている。映画の最後に本人のメッセージや患者本人の写真と作品も映るのにはびっくり。これまで語られることのなかった、ブラジルの一女性医師の功績を世に知らしめたという意味でも、この映画は評価されるべきであろう。感動に包まれるという内容ではないが、精神病や医学、芸術、信念と普段はさほど気にも留めないことをいろいろ考えさせられる密度の濃い映画である。


(TEXT by あらんすみしぃ 2016/11/27)



ニーゼと光のアトリエ

2016年12月17日(土)公開
ココロヲ・動かす・映画社〇
http://maru-movie.com/nise.html

2015年/ブラジル/109分

© TvZero

【ストーリー】
ロボトミー手術や電気ショック療法、インシュリン治療が主流だった1940年代を舞台に、女医ニーゼ・ダ・シルヴェイラは、保守的な男性社会や旧態依然とした医療と毅然と闘いながら、絵画のワークショップや動物セラピーを取り入れた治療を取り入れていく。

監督:ホベルト・ベリネール





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